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大阪高等裁判所 昭和33年(く)8号 決定

少年 T(昭和一七・八・一一生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、原決定を取消す、本件を神戸家庭裁判所に差戻すとの裁判を求め、その理由として、

(一)  原決定の基礎になつた五件の窃盗事実中、被害者の被害届があるのは岡新治のみで、他の犯罪事実については被害届なく、司法巡査作成の犯罪一覧表によつて事実を認定しているが、右犯罪一覧表は司法巡査の単なる報告書に過ぎないから、原決定は採証法則に違反し、証拠なき事実を犯罪事実と認定したもので、法令違反である。

(二)  原決定は、少年Tに対し初等少年院に収容する旨の保護処分決定をなしたが、右決定は不当である。すなわち、少年は従来少年法に規定する保護観察処分等を受けたことがなく、本件が初めてであり、本件は家庭環境の不備より発生した犯行であるから、右家庭環境の不備を是正することにより自ら消滅するものであり、少年院に収容することは却つて悪に感化しやすく不当である。

と主張するのである。

そこで、右第一点について、記録を調べてみると、原決定理由に掲記されている五件の窃盗事実については、五名の各被害者よりいずれも被害届が提出されており、共犯者Q、R、S及びT本人の司法警察職員に対する各供述調書もあり、いずれも関係犯罪事実を自供しており、さらに右盗品の処分等に関する書証も存し、これらを総合すれば、前記五件の窃盗事実に対する証拠は十分であり、何等所論の如き違法がない。弁護人において、記録の一部を見落しているものと思われ、右所論は全然理由がない。

次に第二点について、記録を精査検討するに、Tは従来も軽微な窃盗事件等で十回位交番所で取調を受けたことがあり、決して本件が初めての非行ではなく、しかも本件は深夜ガラスを破り又はこじ明けて押入り、多額の金品を盗む等すこぶる大胆悪質な計画的な非行であり、又父親は酒癖が悪く、そのため母親と離婚しており、従つて保護能力の点もおぼつかなく加うるに交友関係、地域環境共に甚だしく不良であるので、今回は初等少年院に収容して矯正教育を受けしめるのが相当であると認められる。

従つて本件抗告は理由がないから、刑事訴訟法第四百二十六条第一項により、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 児島謙二 判事 畠山成伸 判事 本間末吉)

別紙(原審の保護処分決定)

○主文および理由

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

少年は、

1 Qと共謀の上、昭和三二年一〇月二六日午前二時三〇分より同三時迄の間に、神戸市○○区××町△丁目△△酒小売商P方住居に侵入し同人所有の現金一八、〇〇〇円及び金銭登録器一台(時価七〇、〇〇〇円相当)を

2 Q、Rと共謀の上、同年一一月六日午前二時より同三時迄の間に、同市同区○○町×丁目××よせOや方住居に侵入し金属屑置場に在つた鉋金ダライ粉、砲金屑、銅屑、鎮鍮屑計一四貫余(時価計七、四〇〇円相当)を

3 上記両名と共謀の上、同年一二月一四日午前一時頃、同市同区××町△丁目△△煙草商N子方住居に侵入し店舗に在つた同人所有の現金二二五円及煙草富士四個(時価二〇〇円相当)を

4 上記両名と共謀の上、同日午前二時より同四時迄の間に、同市同区同町×丁目×質商M方住居に侵入し同家に在つた同人所有の現金約五〇、〇〇〇円を

5 前記両名及びSと共謀の上、同年同月一九日午前二時より同四時迄の間に、同市同区同町△丁目△△質商L方店舗より同人所有の現金五〇、〇〇〇円余、腕時計約一九個(時価計一七、六〇〇円相当)外雑品二点を

各窃取したもので、上記所為中住居侵入の点は刑法第一三〇条に、窃盗の点は同法第二三五条に各該当するところ

本件は年令に比しすこぶる大胆、悪質の計画的な非行であり、しかも父は酒癖悪く、このために母とは現在離婚中で従つて保護能力の点もおぼつかなく、加うるに交友関係、地域環境共に甚だしく不良であるので初発非行ではあるが地域社会浄化のため、且は怠学から来た深刻な劣等感是正のためにもこの際思いきつて本少年を矯正教育の対象たらしむる必要ありと認め少年法第二四条第一項第三号、少年院法第二条第二項に則り主文のとおり決定する。

(昭和三三年二月一八日 神戸家庭裁判所 裁判官 藤田尚一)

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